特集
2020.02.19 四條由貴

富士山麓の自然を守る猟師|西富士山麓猟友会 神戸清和さん

富士山麓の自然を守る猟師|西富士山麓猟友会 神戸清和さん

富士山麓には、鳥獣保護区域である広大な国有林と、そこを囲むように私有の森林が広がります。野生動物たちの宝庫です。野鳥やクマ、タヌキにキツネ、多くの種類が、生息しています。
しかし、数を増やし過ぎたニホンジカやイノシシは、周辺の木々や農作物に被害を及ぼしてしまいます。ヒノキやモミ、スギの根元の皮を食べてしまう「皮剥ぎ」。皮を剥がされた木は、変色し商品価値を落とすこともあり、最悪の場合は枯れてしまうそうです。
農作物では蕎麦を例に挙げると、新芽、成長過程の茎や葉、実と、どの段階でもシカの餌食になってしまうのだとか。このような被害対策のため活躍されているのが、猟友会のみなさんです。野生動物を増やし過ぎず、減らし過ぎないよう自然を保護し、バランスを保つため日々、活動しています。

その様子を西富士山麓猟友会所属 神戸清和(カンベ キヨカズ)さんに伺いました。


悪路の林道を軽トラックに乗り、仕掛けたわなを見回る神戸さん

動物との知恵比べ、経験値で仕掛ける「わな猟」

神戸さんは、わな猟免許と銃猟免許を取得し、50年ほど前から自宅周辺の森林で狩猟を行っています。平日は一人でわな猟へ出かけます。神戸さんの行うわな猟は、「箱わな」と「くくりわな」の2種。箱わなは、動物が出没しそうな場所に大きなゲージを設置。侵入口から動物が入ると、装置がはたらき扉を閉める仕組みです。主に、イノシシの捕獲に利用します。

動物を誘き寄せるために、わなの周りにエサを撒きます。このエサは、猟師さんにより様々で、菓子パンなど人間が好むような食品を使う人もいるようですが、神戸さんは、精米時に生じる米のカス(青米やもみ殻、糠を含んだ精米時の残渣)やミカンやサツマイモなどの野菜くずなどを使います。あまり美味しいエサを撒くと、キツネやタヌキに先に食べられてしまうのだとか。

「動物の行動を予測して、わなの設置場所、エサを工夫しています。うまくいく事ばかりではないですよ、自信を持ってココだという場所にわなを仕掛けても、何日も空振りすることもあります。動物と猟師の知恵比べです」と神戸さん。
もう一つのわな「くくり罠」では、シカやイノシシを狙います。このわなも、大変な苦労があるようです。成功させるには、長い経験で培った勘と観察力が問われます。
仕組みは、わなの上を動物が通ると、踏まれたわなのバネが作動し、ワイヤーが足にくくりつけられるというもの。重要なのは、仕掛ける場所。シカには決まった生活道路、いわゆる獣道があるようです。その道を、神戸さんは見極めます。足跡を見ただけで、動物の種類、サイズ、どのくらい前に、どちらの方向へ向かったのかが分かるそうです。その様子から、「必ず通る道」を見つけだし、そこにわなを仕掛けるのです。

ただこのくくりわなには、弱点があります。わなの中心以外を踏むと、わなだけが作動し獲物が掛からない「空はじき」という状態になってしまうのです。そこで、神戸さんは手製のわなに改良を重ね、わなに木枠を付けることで、空はじきを減少させました。このわなは静岡仕様といわれ、今ではわなメーカーから販売されているようです。


エサを食べた形跡のある箱わなに、新たなエサを補充
 

チームワークで仕留める銃猟「巻き狩り」

週末になると行うのが、猟友会のメンバーと複数人で行う銃猟「巻き狩り」です。神戸さんの所属する西富士山麓猟友会には、30代から70代くらいまで幅広い世代の10名ほどが加入しています。平日は一般企業に勤めている人も多いので、限られた週末に参加できるメンバーが、自身の飼う猟犬を連れて集まります。
猟がスタートすると、犬が案内する方へ、草や木々をかき分け、互いに声を掛けあいながら、シカやイノシシを追います。傾斜のある険しい山道を進むので、かなりの体力を消耗するそうです。
危険を伴う猟なので、厳守しなければならないルールや注意事項が多数あります。このうちの1つに、お尻のポケットや腰元に白いタオルを下げてはいけないというものがあります。
なぜかというと、ニホンジカのお尻は白いから。シカと間違われて、お尻を狙われてしまう危険性があるのだそうです。山登りをされる人も、気を付けた方がいいかもしれませんね。


神戸さんが工夫を重ねた手製のくくりわな
 

すこやかな山を守る自然循環の一部として猟師がいる

鳥獣被害が増えている状況、自然保護について、神戸さんはこう語ります。
「昔は、薪集めなど頻繁に人が山に入っていました。また山と都会の間に里山があったことで、人の気配を感じ、野生動物が人前に現れることは少なかったように思います。今では、人が山に入る機会も無くなってしまいました」
人の気配が減ったため、山裾や平野まで動物たちが現れるようになったのではないかとの見解です。また、次のようにも語っています。
「雨水を吸収する保水力のある健康的な山を保全するには、木々の間伐が必要です。間伐後の森林は日光が当たり、シカなど動物たちのエサとなる草木が育ちます。エサが豊富になると、頭数が増加し、近隣への被害が発生するわけです。そこで、私たち猟師の出番です」
猟師さんは、自然の循環の一部なのだと。適度に人が自然と関わり、資源や動植物を持続的に保護していくことが重要だと教えてくれました。

神戸さんたち猟師さんは、鳥獣保護管理法により定められた狩猟期間に猟を行います。都道府県により、期間や対象動物も異なります。今年度の静岡県では、ニホンジカ、イノシシの狩猟期間は11月1日から翌3月15日まで。
また自治体の依頼により、猟期以外の時期も、有害鳥獣捕獲としてニホンジカとイノシシの捕獲を行っています。

捕獲した後は、専門業者に渡りジビエ肉として市場に流通していきます。大げさですが、このように捕獲されたジビエ肉を食すことは、自然保護の一役を担うことになるのかもしれません。
猟師さんたちが志を持って狩猟したシカやイノシシの肉を、美味しく味わってみませんか?
神戸さんの捕獲したイノシシやシカは、藤枝市にあるジビエ肉の専門店「尾州真味屋総本舗」で取り扱っています。
冬は、脂ののったイノシシが美味で、鍋などにおすすめだそうです。夏は、シカのロースやモモ肉がさっぱりとして、ツウに人気のようです。

<取材協力>
西富士山麓猟友会所属: 神戸清和さん

尾州真味屋総本舗
426-0027 静岡県藤枝市緑町2-2-21
TEL:054-631-7624
http://www.mt-fujiyama.jp/


 

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