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2020.04.20 四條由貴

ヤマザクラの森林を育む森町の花咲爺さん|森町森林組合 組合長 甚沢万之助さん

ヤマザクラの森林を育む森町の花咲爺さん|森町森林組合 組合長 甚沢万之助さん
温かさが増し、山の森の緑が淡くなってきました。芽吹きの季節です。森町、三倉地区の山々は4月になると、あちらこちらでヤマザクラが満開となり、薄桜色、珊瑚色、朱鷺色と、濃淡のあるピンクに染まります。山間には清流が流れ、美しい野鳥の声が、こだまします。まるで、昔話に登場するような里山の風景です。今回は、この美しい山を守ろうと活動している、森町森林組合 組合長 甚沢万之助(じんざわ まんのすけ)さんに案内してもらい、ヤマザクラの森を散策しました。

甚沢さんは、江戸時代から続くシイタケ栽培農家として、三倉地区に広大な広葉樹の山を所有してきました。ほだ木(栽培用木材)となるシデやコナラなどを育て、木々の繁る下でシイタケを栽培、炭を燃料として収穫したシイタケを乾燥させ、出荷します。先祖代々、森の木々とともに暮らしてきました。自宅の縁側からは、所有する山の一部である53ヘクタールの森が一望できます。日々、色や表情を変えていく山を眺め、自家栽培のお茶をすする時間が、何よりの贅沢だとか。


推定150年を超えるヤマザクラの大樹に触れる甚沢さん
 

人の手を必要とする人工林と、自己再生力の強い自然林

私たちの身近な場所にある森林は、大きく2種に分かれます。スギやヒノキなど住宅用木材として植林された人工林と、多種の木々、広葉樹が競争あるいは共存し合う自然林です。工林は、10年~15年に一度、間伐を行う必要があります。過密化を防ぎ、下層植生(低木、草類からなる植物集団)の成長を促すことで、土壌の流出を防ぎ、保水力のある健康な森を維持します。山の荒廃を防ぐためには、必ず人の手を必要とするのです。
一方、自然林は、伐採など人の手が加わっても、自然の力で再生、維持が可能です。三倉地区には、この自然林が、他の地域より比較的多く残っています。それは、この地区の人々が、薪や、シイタケ栽培用の木材として広葉樹を利用し、里山を守ってきたから。川や道沿いにも広葉樹が多く、その中にヤマザクラが点在しています。大きく繁った木々は、花びらの舞うトンネルを作り、訪ねる人を出迎えてくれます。


競り合い、絡み合うように成長を続けてきたスギとヤマザクラ
 

日々表情を変え、静かなドラマを繰り広げる森

甚沢さん所有の自然林には、多くの樹種が生育しています。ヤマザクラはもちろんのことモミ、イタヤカエデ、コナラ、ケヤキ、ホウノキなど。それらが、静かな生存競争を行っています。虫に食われ枯れていく大木や、自然災害により破損してしまった大木の周りには、稚樹が待機しています。大樹が朽ち、空間ができることをじっと待っているのです。やがて、日の当たる空間ができると、稚樹たちは勢いを増し、成長のスピードを速めます。
また、おおよそ同樹齢の木々では、競り合い密接するように成長しているものもあります。どちらか一方を残したい場合は、甚沢さんが細工を施します。例えば、節だらけのスギと、これから100年成長させたいヤマザクラが競り合っている場合、そのままにしておくと縦への成長が早いスギが勝つことが予想されるそうです。安易にスギを伐採すると、周囲の木々を破損する恐れがあるため、表皮を剥ぐ「巻き枯らし」を行います。2年程の時間をかけ、スギを枯らすのです。
充分に成長した木は、市場に出されます。モミやツガは、木肌が白く柔らかなことから、絵馬や卒塔婆など、神事、仏事の木として。ケヤキやヤマザクラは、家具として。手をかけ過ぎず自然の成長を見守りながら、資源として有効利用していくのです。



大きく枝を広げる花盛りのヤマザクラ
 

ヤマザクラの森を、未来へ受け継ぐために

自然林に生息するヤマザクラ。挿し木で増やすソメイヨシノと違い、種子で広がっていきます。そのため個体差が大きく、花の色、開花時期もそれぞれ。また、満開と同時に赤みのある葉を付け、野性味のある美しさを感じさせます。寿命が長いため、数百年を超える大樹も多く、荘厳な雰囲気を漂わせます。甚沢さんは、三倉地区を「ヤマザクラの里」として、この美しい風景を多くの人に楽しんでもらいたいと話します。「ハイキングやサイクリングなどで、ゆっくりと時間をかけて春の里山の風景を愛でて欲しい。表情豊かな森や山を知ってもらいたい」と甚沢さん。
三倉地区が美しいのは、春だけではありません。少し季節が進むと、こんもりと緑が茂り、ホウの木は甘く香る大きな白い花を付けます。朱色が美しく、歌うように鳴く鳥アカショウビンが東南アジアから渡ってきます。四季折々に表情を変える三倉の森。一年を通して楽しむことができます。甚沢さんは、バードウォッチングや木々について学ぶ自然観察授業を開催し、地域の子どもたちに森の魅力を伝える活動も計画しています。自然を身近に感じてもらい、森を守る次世代を育てていくのだそうです。


<取材協力>
森町森林組合 組合長 甚沢万之助さん
取材日:2020年4月4日

 
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